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じりじりとグランドに照る真夏の太陽は分け隔てなく皆に降り注ぐからその姿勢は好きだ。好きだけど暑いので俺はベンチの上で太陽が傾きを変えるたびにじりじりと翳へ翳へにじる。木陰はそれなりに涼しいし、心地良い。西浦の野球部員たちが揃って走っている。揃って走っていると尚更わかる。キャプテンのケツの位置が一段違うなあと俺は思う。別に花井のケツばっかり見てるわけじゃないけど、ひょろっと背が高くて脚が長くて、毎夏テレビに食いついて観る甲子園球場の中継にいる球児そのものって感じがする、坊主だし、こう、典型的な高校球児だ。いいなあ。 いいなあ、じゃねえよ。 諦めるとか諦めないとかそういうのじゃなくて、泉に言わせれば俺のは言い訳だそうだ。夢は夢のままの方がキレイだからな、ってあいつの言うことは年下のくせにいつも正しい。ただ、正論は決して俺を救わない。それでも、泉の言うことは俺の中に重く残るのが不思議だ。 俺の目の前でランニングのノルマを終えた部員たちが数分の休憩に入る。気のつくマネージャーが機を見計らって三倍ほどに薄めた冷たいスポーツドリンクを用意しているところへ散り散りにだが群がって、プラスチックの軽そうなコップを一息で飲み干す。顎から滴る汗だかアミノ酸飲料だかが、光って落下して砂に吸い込まれてあっと言う間に蒸発する。一瞬濃いドットにそまった地面はすぐに何もなかったかのように白茶けたグランドに戻る。背の高い一人が群から離れてこちらへ近づいてくる。片手にコップ、片手でキャップを脱ぎながらぱたぱた坊主の額を扇いでいる。 「浜田サン、」 呼ばれた俺はねぎらいを以て占領していた一人分の木陰を彼に無言で譲るが彼も無言でそのままでいいと譲り返す。律儀だなあ。俺は声を出していいから座りなよ、と言う。花井は逡巡の後すとんと木陰の方へ腰かけたが、たぶんここは声を出して勧めた俺の負けだろう。一敗。要りますか、と飲みさしのコップを差し出されたので何だか断れなくて、受け取ってしまった俺はなめるくらいの量を口に含んだ。砂が混じってじゃりっと歯の間で音が鳴る。あんな純粋そうな男をだまして、と言われた。俺はこいつをだましたのだろうか。スポーツドリンクは普通の濃さなら甘いのに、ある程度薄めるととたんに酸っぱくなる。コップを返すと花井はそのまま残りを全部飲み干した。 「お疲れさん」 こうして日陰を譲って日なたにいるとやはり随分暑く、じわっと汗が浮くのが分かる。青いベンチのケツでさえ熱い。今日あちいな。あっちが近づいてきたのにこっちから話をふっている。当たり障りのない気温の話。初対面の他人同士でも差し支えのない話題だ。 「もうトシだから座ってるだけでおじさんバテてバテて、」 「あの、朝の話、」 「…ああ、や、俺ホント花井たちのこと応援したいと思ってるんだよ、花井が思ってるようなこととは関係なくさ、だから」 だから俺の事情とかは気にしなくていいよ、だからお前らはお前らで頑張れよ、だから、あー…。俺はだから、に何を続ける気だったんだろう。その先に言えることなんて何もなかった。俺は花井のそのまっとうなところがかなり好ましかったしだからこそ花井と向き合ったときに自分の言ってることやってることがどこか卑怯っぽくて何か嫌だった。花井はきっとそんなこと全然思ったりしないだろう、にも関わらず。花井は言葉を選ぶふうにしてちょっと黙った後、声を出した。 「…甲子園行きたいですよね、浜田サンも」 「できるもんなら連れてってくれよ」 はは、と笑いながらデカい口を叩いたキャプテンをちらっと横目で見る。あのいつも慎重な感じの花井の目が確かに本気で、俺は自分の心の底が躍るのがわかった。俺の夢はキレイで、それはそのまま具現して俺の横にたった今座っている。いつの間にか完全に覆っていたはずの木陰は花井の座っている位置から少しずれていたけれど、そんなことに花井は頓着しない。 「あ、そろそろ俺行きますね」 ささやかな休憩時間が終わったらしく球児がグランドの隅に集まり始める。それを見た花井が慌てて立ち上がろうとするので俺はその腕を咄嗟に掴む。俺のなまっちろい腕との色の違いに俺は何だか愕然としながら、でも何も考えてないふうに俺は装う。 「サン無しでいいよ、梓ちゃん」 俺がわざとにやにや笑うとかあっと音がするくらい速く、焼けた顔に赤みがすうっと差す。赤面した顔からぐっと抑えたような声でハマちゃんでいいスか、と返ってきて俺はその切り返しの変なまっとうさにまた心中でかなり受ける。花井は腕を掴まれたまま動かない。 「敬語もナシね」 俺の掴んだ腕が右だったことに俺は恐らく花井より後に気づいて、俺はまたちょっと後悔する。こんな手振り切って行けばいいのにと俺は思う。俺が手から腕を離すと花井は走り出しながら俺に向かって丁寧語スよ、か何か言ってる。あちいなー、俺はひとりごちて翳のできた隣のベンチへ移る。 花井が残していったカップの内側はすっかり乾いてしまっている。何故か底に砂が一粒入っていて、俺はそれを地面に落として日に焼けて熱い砂の中へ返した。遠くに野球部員が白い塊になって見える。逃げ水が揺れる。俺の望んだ夏だ。 |