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山本が人間を見るときの眼は無機物を見るときの眼とおなじだ。景色を眺めるそれともおなじだ。彼の眼窩は空洞で何も入っていない。胸腔は空気がその全てを埋めている。ような気がする。彼の身体といったら脳ですらがらんどうだ。自殺未遂をした山本が自殺を遂行していたとして死ねたかは怪しい。その身体が落下しても中で何かが反響する音しかしないのではないか。山本という人間はひびも入っていないのに中身がもとから入っていない殻だけのなま卵のようだ。しかしそんなものはこの世界には存在しない。 放課後の教室は斜めに陽が差してあたたかい。窓際の他人の席でどろりと伏せて眠る山本を見下ろして気づいた、腕が無防備だ。投げやりに投げ出された腕は手首から先はだらんと机から垂れている。ついこの間までいかにも痛々しげに包帯が巻かれていたが果たしてあの下が傷ついていたかは疑わしい。ボールペンを取り出してカチ、と芯を出す、寝ている山本の、手の甲へ突き刺す。カーテンを揺らした風が山本のうなじをそのままなぜる。手の甲へ芯が浅く埋まり消える。山本よどうかパンと音をたてて弾けないでくれ。空気が抜けて萎んだりしないでくれ。パリンと割れて乾いた二つの殻にはならないでくれ。どうか眼を醒まして血を出して痛がって怒って殴ってくれ。願わくば。山本が死んだように眠って起きない。半ばほっとしながらあきらめ息を吐いて手の甲からペンを離すとそこへ黒い点が残って、それを拇指のはらでこすっているとやっと山本の頭がすこし傾いだ。見てもいないのに、顔を伏せたままでこすっている指をシャーペンを突き刺さなかった方の手で捕らえられ、その手があたたかいのでぞっとしていると「いま、何時」とくぐもった声が問うた。捕らえられた手も構わずにそのまま適当にめちゃくちゃな日時をそこへボールペンで書き殴ると数字が乱れて泣いたようになった。ボールペンをつむじに投げつけてそこを逃げるように去ると山本はまた静かになって景色と同化し動かなくなった。 そこへ書き込んだ日時と言えばその詳細はもう忘れてしまったもののいつかその時間に山本が殺しにきても文句は言えない気がして毎日午後の光があの角度で窓際から入る頃ぞっとして山本が来るのを待って恍惚とする。忘れない。 20041102:日記にて初出 20050206:発掘 |